確率は様々なゲームで指標として用いられている。
遊戯王OCGなどのトレーディングカードゲームでは、確率がデッキ構築とプレイングの指標となる。
ここでは主にデッキ構築に関して、確率の有効な活用法を記述する。
確率は計算方法などある程度の知識があれば比較的簡単に値が求められる。
しかし求めた値をどのように判断するか、基準が無ければ有効に活用することは難しい。
一つの判断基準として、統計学で有意水準として多く利用される5%という数字がある。
これは、ある事象が起こる確率が5%以下なら小さい確率と判定し、5%より大きい値は小さい確率とは言えない、とするものだ。
例えば50%ずつの確率でアタリとハズレの出るくじがあったとする。
このくじで4回連続でハズレが出る確率は6.25%。とても運が悪いように思えるが、有意水準5%により、起こり得ない現象ではない、と判断される。
同様に5回連続でハズレが出る場合はどうか。確率は3.125%。こちらは有意水準5%を下回るため、確率の偏りが見られる、と判断される。
以上を踏まえて、遊戯王OCGにおける各種カードのデッキ投入枚数を考察する。
(表1)は40枚デッキにおけるデッキ投入枚数と初手に存在する確率をまとめたものである。
初手存在率とは、初手5枚+1ターン目のドロー1枚の6枚の内、1枚以上そのカードが含まれる確率を表す。
また初手1枚率とは6枚中1枚「だけ」そのカードが含まれる確率、初手2枚率は6枚中2枚「だけ」そのカードが含まれる確率、以下同様となる。
デッキに下級モンスターを14枚入れた場合と15枚入れた場合を比較してみる。一見ほとんど差異は無いように見える。
しかし初手存在率を比較すると、14枚が94.00%、15枚が95.39%となっており、これは初手に存在しない確率がそれぞれ6.00%、4.61%あることを意味している。
有意水準5%から考えると、14枚の場合、初手に1枚も引かないことは起こり得ないことでは無い、と判断される。
逆に15枚の場合ならば、初手に1枚も引かないことは小さい確率である、と判断される。
よって下級モンスターを初手に1枚以上引きたい場合、15枚以上というのが一つの基準となる。
ただし、初手に1枚以上引くことよりも、初手のモンスター・魔法カード・罠カードの枚数バランスをとることを優先するならば、期待値が2.00枚に近い13枚、14枚という選択もあり得る。
手札に被ると本来の力が発揮できないガジェットモンスターの場合、初手に1枚以上存在する確率よりも、初手に1枚だけ存在する確率が優先される。
(表1)にあるとおり、40枚デッキの場合1枚だけ引く確率が最も高いのが6枚。また、期待値が最も1.00枚に近いのが7枚。よって6枚か7枚が合理的な枚数となる。
ちなみに(表2)にある通りガジェットを9枚入れた時、1枚だけ引く確率が最も高くなるのはデッキが54枚の時。この場合は期待値も1.00枚ちょうどとなる。
ただしこれはあくまでガジェットの初手1枚率から見た理論値。
デッキに投入される他の効果モンスター・除去魔法・除去罠は考慮外のため、54枚のガジェットが強いどうかは保証の限りでは無い。
ガジェットの投入枚数の記述中にあったように、期待値が最も1.00枚に近いのが7枚。
よってデッキ構築の際に何か1つの機能を戦略として組み込む場合、同機能のカードは7枚以上が望ましい。
例えば魔法カードによるモンスター除去がデッキの戦略の一部になっている場合、《地砕き》《地割れ》《ハンマーシュート》などを7枚以上投入する、といったような具合になる。
しかしデッキには同種のカードは3枚までしか入れられないため、7枚以上投入しようとすると最低3種の類似効果カードが必要になる。機能によっては3種どころか2種さえ厳しいので、現実的にはサーチカードを含め6枚をデッキに入れられれば十分だろう。
例えばフィールド魔法をデッキの戦略に組み込む場合はフィールド魔法自体を3枚投入するだけでなく、《テラ・フォーミング》またはサーチに対応する効果モンスターも3枚投入する、といった具合だ。
デッキ構築において、あるカードを2枚入れるか3枚入れるかの差異は何か。当然3枚のほうが初手に存在する確率は高い。では3枚入れられるカードをあえて2枚だけ入れる意味はあるのだろうか。
(表1)の2枚と3枚の初手2枚率を比較すると、それぞれ1.92%と5.16%となっている。有意水準5%に基づき判断すると、2枚投入の場合は初手に2枚被る確率は小さいが、3枚投入の場合は2枚被る確率は起こり得ないことでは無い、となる。
よって初手に1枚以上存在することよりも、初手に2枚以上存在するリスクを避けることが優先される場合、デッキに投入する枚数は2枚となる。
では3枚あるいは2枚入れられるカードを、あえて1枚しかに入れない意義はあるのか。
2枚入れたカードと1枚入れたカードが、それぞれ初手に存在しなかった場合を考えてみよう。
40枚デッキなら初手6枚を除いた残り34枚がデッキとなる。
次のターンに2枚入れたカードをドローする確率は2/34で5.88%。
1枚だけ入れたカードをドローする確率は1/34で2.94%。
有意水準5%により、デッキに2枚入れたカードは初手に存在せずとも、次のターン以降にドローする確率は起こり得ないことでは無い、と判断される。
一方1枚だけ入れたカードは、初手に存在しなかった場合、次のターンにドローする確率は小さい、と判断される。
ちなみに1枚だけ入れたカードのドロー率が5%以上になるのは、自分のターンで数えて15ターン目、デッキが残り20枚になってから。この時1/20で5%ちょうどとなる。
よって初手に来る確率を下げ、15ターンほどはドローする確率を小さいものに抑え、それ以降にドローすることを望むなら、デッキに1枚だけ投入する事になる。
ただし1枚だけ投入したカードであっても初手存在率は15.00%ある。中盤以降にドローすることを想定していても初手に来てしまうことは、有意水準5%により、起こり得ないことでは無い。
(表3)はデッキ枚数と投入枚数に様々な値を入れた表。
40枚デッキに2枚投入した場合と41枚デッキに2枚投入した場合の確率は後者が若干小さい。
40枚デッキに2枚投入した場合と41枚デッキに3枚投入した場合の確率は後者が著しく大きい。
デッキの枚数を40枚から41枚に増やしてもデッキ全体の初手率に与える影響は大きくない。しかし、あるカードの枚数を2枚から3枚に増やした場合、そのあるカードの初手率に与える影響は大きい。
例えば、あるカードをデッキに3枚入れたいと思っているとする。しかしそのカードを入れるとデッキが41枚になってしまう。かと言って外すカードも見当たらない。40枚にするため2枚だけ入れるのが良いか、それとも41枚にして3枚すべて入れるのが良いか。
確率の観点から見ると、そのカードが本当に3枚必要かつ外すカードが存在しないならば、41枚にして3枚すべて入れることが正解になる。
このケースに限らず確率を踏まえたデッキ構築においては、デッキの枚数をぴったり40枚に抑えることよりも、必要なカードが必要な枚数分投入されているかの方がより重要である。
ちなみに40枚デッキに2枚投入した場合と59枚デッキに3枚投入した場合の確率がほぼ同じとなる。
以下の各表の確率計算に用いた式
デッキ総枚数=x 初手枚数=y デッキ投入枚数=z とする。
初手存在率 1)x−z>=yの場合 100(1−x−zCy/xCy)%
2)x−z<yの場合 100%
初手n枚率 100(zCn*x−zCy−n/xCy)%
期待値 (初手1枚率/100)+2(初手2枚率/100)+3(初手3枚率/100)+4(初手4枚率/100)+5(初手5枚率/100)+6(初手6枚率/100)
(表1) 40枚デッキにおけるデッキ投入枚数と初手率および期待値
デッキ投入枚数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
初手存在率 | 15.00% | 28.08% | 39.43% | 49.25% | 57.71% | 64.96% | 71.14% | 76.39% | 80.82% |
初手1枚率 | 15.00% | 26.15% | 34.07% | 39.07% | 42.29% | 43.50% | 43.28% | 41.97% | 39.84% |
初手2枚率 | 0.00% | 1.92% | 5.16% | 9.21% | 13.64% | 18.12% | 22.39% | 26.23% | 29.51% |
初手3枚率 | 0.00% | 0.00% | 0.20% | 0.74% | 1.71% | 3.12% | 4.98% | 7.24% | 9.84% |
初手4枚率 | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.02% | 0.08% | 0.22% | 0.48% | 0.90% | 1.53% |
初手5枚率 | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.01% | 0.02% | 0.05% | 0.10% |
初手6枚率 | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
期待値(枚) | 0.15 | 0.30 | 0.45 | 0.60 | 0.75 | 0.90 | 1.05 | 1.20 | 1.35 |
,
デッキ投入枚数 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
初手存在率 | 84.53% | 87.62% | 90.18% | 92.29% | 94.00% | 95.39% | 96.49% | 97.37% | 98.06% |
初手1枚率 | 37.13% | 34.03% | 30.73% | 27.34% | 23.99% | 20.76% | 17.72% | 14.90% | 12.35% |
初手2枚率 | 32.13% | 34.03% | 35.21% | 35.66% | 35.44% | 34.60% | 33.22% | 31.37% | 29.16% |
初手3枚率 | 12.69% | 15.71% | 18.78% | 21.70% | 24.66% | 27.26% | 29.53% | 31.37% | 32.74% |
初手4枚率 | 2.38% | 3.49% | 4.87% | 6.54% | 8.48% | 10.67% | 13.09% | 15.69% | 18.42% |
初手5枚率 | 0.20% | 0.35% | 0.58% | 0.91% | 1.36% | 1.96% | 2.73% | 3.71% | 4.91% |
初手6枚率 | 0.01% | 0.01% | 0.02% | 0.04% | 0.08% | 0.13% | 0.21% | 0.32% | 0.48% |
期待値(枚) | 1.50 | 1.65 | 1.80 | 1.95 | 2.10 | 2.25 | 2.40 | 2.55 | 2.70 |
(表2) 9枚投入カードにおけるデッキ総枚数と初手率および期待値
デッキ総枚数 | 40 | 42 | 44 | 46 | 48 | 50 | 52 | 54 | 56 |
初手存在率 | 80.82% | 78.89% | 77.01% | 75.18% | 73.41% | 71.70% | 70.05% | 68.46% | 66.93% |
初手1枚率 | 39.84% | 40.72% | 41.39% | 41.88% | 42.23% | 42.44% | 42.55% | 42.57% | 42.52% |
初手2枚率 | 29.51% | 28.08% | 26.70% | 25.38% | 24.13% | 22.94% | 21.82% | 20.77% | 19.78% |
初手3枚率 | 9.84% | 8.74% | 7.79% | 6.97% | 6.26% | 5.63% | 5.09% | 4.62% | 4.20% |
初手4枚率 | 1.53% | 1.27% | 1.06% | 0.90% | 0.76% | 0.65% | 0.56% | 0.48% | 0.42% |
初手5枚率 | 0.10% | 0.08% | 0.06% | 0.05% | 0.04% | 0.03% | 0.03% | 0.02% | 0.02% |
初手6枚率 | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
期待値(枚) | 1.35 | 1.29 | 1.23 | 1.17 | 1.13 | 1.08 | 1.04 | 1.00 | 0.96 |
(表3) 各種デッキ総枚数と投入枚数による初手率および期待値
デッキ総枚数 | 40 | 40 | 41 | 41 | 42 | 43 | 45 | 50 | 59 |
デッキ投入枚数 | 2 | 3 | 2 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
初手存在率 | 28.08% | 39.43% | 27.44% | 38.60% | 37.80% | 37.04% | 35.60% | 32.43% | 27.94% |
初手1枚率 | 26.15% | 34.07% | 25.61% | 33.49% | 32.93% | 32.38% | 31.33% | 28.96% | 25.43% |
初手2枚率 | 1.92% | 5.16% | 1.83% | 4.92% | 4.70% | 4.50% | 4.12% | 3.37% | 2.45% |
初手3枚率 | 0.00% | 0.20% | 0.00% | 0.19% | 0.17% | 0.16% | 0.14% | 0.10% | 0.06% |
期待値(枚) | 0.30 | 0.45 | 0.29 | 0.44 | 0.43 | 0.42 | 0.40 | 0.36 | 0.31 |